2010 年 1 月 13 日

研究室と企業の関係

by koji

「仕事ができる人になる」ことと、「会社に入る」ことは全然別のことである。別に民間企業に入らなくても、仮に大学に残って研究活動に従事し、将来は大学の教員になるにしても、才能を活かして芸術家になるにしても、他者との高いコミュニケーション能力を持ち、論理的思考能力があって、段取りがうまくできる、つまり「仕事ができる」人になることは必ず必要なことである。むしろこれまでの大学が閉鎖的すぎて、あまりにも「社会化」していない、よく言えば純真、悪く言えば幼稚な学生ばかりを排出してきたことのほうが問題で、今頃「インターンシップが学業に影響を与える」などと言っているようでは、問題の所在を理解していないのではないかと感じざるを得ない。

たとえば、技術系学生の就職を考えてみればよい。技術系学生の生活は基本的に研究室を単位に成り立っており、研究室はその先生が持つ技術と関連の深い企業と非常に密接な連携を保っている。それはもちろん就職のためだけにそうしているわけではなく、研究・教育活動というものが、企業社会の動向と切り離すことができないからそうなっているのである。学生たちは先生や卒業生との関係を前提に、そうした関係の深い企業に就職していく例が多い。

この制度には研究室と企業の関係を維持するために、教授が学生を関連する企業に就職させたがる傾向が強すぎるといった問題点もあるが、こういう状況に対して、「就職活動の早期化」だの「教育効果に影響を与えるから企業の影響を排除せよ」などという意見を言う人は見たことがない。私は、むしろ技術系のこうした教育習慣を文系学生にも応用できないものかと思うぐらいである(経営学やマーケティングなどの一部の先生には、学生を巻き込んで企業と共同でプロジェクトを組んだりしている例もあり、そういう試みは素晴らしいことだと思う)。

要するに、大学と企業社会をまったく異質な、断絶したものと考えるという習慣から抜けきれないから、「就職活動の早期化」を問題視する見方が出てくる。「早期化」、大いに結構ではないか。生まれた時から「就職活動〈ステップ0〉(=社会で責任を果たせる人になるための活動)」は始まっているのだ。今や大企業に入ったところで、黙っていればいい仕事が上司から降ってくる時代ではない。自分で自分をプレゼンテーションして、成果を出し、自分の力でいい仕事を引っ張ってこなければ、大企業に「所属」していたところで大した仕事はできない。それどころか、職の継続すら保証されない。これは大企業の社内であっても「就職活動」が一生継続しているようなものではないか。誰でも「就職活動」を一生続けなければならない時代になったのである。

大学も社会の一部であり、企業も社会の一部である。こうした相互依存的な状況は社会が高度化、複雑化、成熟化するにしたがって、年々強まっている。その状況を正面から認識せず、社会と切り離された形で閉鎖的になれば衰退していくしかない。そのズレを「就職活動」に直面して、あわてて修正しようとするから就職活動が矛盾だらけになる。現在の就職活動が不毛なものになる大きな理由のひとつはここにある。

明日は、人を育てる機能をどこが担うか(01/14)です。

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目次
はじめに(12/24)


第1章「就活」の時代は終わった
「就活」は賞味期限切れ(12/25)
誰が次世代の人材を育てるのか(12/26)
企業への「所属」は頼りにならない(12/27)
安定とは休みなく進化しつづけること(12/28)
終身雇用と新卒採用は一体だった(12/29)
有名大学至上主義の背景(01/04)
なぜインターンシップが増えたのか(01/05)
変わる個人と会社の関係(01/06)
「就活」時代の終わりの始まり(01/07)


第2章「就活」の<ステップ0>
勝負はスタート時点でついている(01/08)
料理のおいしさは素材で決まる(01/09)
すぐに<ステップ0>を始めよう(01/10)
就活の「早期化」はほんとうに問題なのか(01/11)
学生のキャリア意識の高まり(01/12)
研究室と企業の関係(01/13)
人を育てる機能をどこが担うか(01/14)
企業から人材育成力が失われた(01/15)
みんなで人を育てよう(01/16)
「学び」と「仕事」を共存する(01/17)
「プロ学生」の時代がやってくる(01/18)
社会で役割を果せる力をつけろ(01/19)
目次の続きはこちら


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